vol.11:学習塾ベイシック講師 野尻はるひ
夏目漱石と言えば、日本で最も知られた文豪の一人。漱石のひ孫・野尻はるひさんが、守谷駅前の学習塾ベイシックで講師をされているとのことで、お話を伺いました。
漱石のひ孫として
野尻さんは、夏目漱石のひ孫だそうですね。
私の祖父が、漱石の長女・筆子の娘婿である松岡譲(まつおかゆずる)です。つまり、私は漱石の「ひ孫」となります。漱石は40代で亡くなったので、当然直接の思い出はないです。でも小学生の頃には既に、親に教えられ自分が夏目漱石のひ孫であることを知っていました。
漱石について、何かエピソードはありますか?
小学校6年生の時、突如転校させられたんです。転校先は「東京都千代田区立錦華小学校」。漱石も在籍していた学校です。中学校も漱石が一時在籍した「千代田区立一橋中学校」に行くように言われました。2歳年下の妹も数年遅れて同じように転校させられて。後から思えば、親は漱石の在籍した学校を私たちに経験させたかったのでしょうね。
漱石の本はたくさん読みましたか?
子どもの頃は芥川龍之介や太宰治はたくさん読みましたが、反発する気持ちもあって漱石はあまり。「坊ちゃん」と「吾輩は猫である」くらいは読みましたけどね。大人になってから改めて知りたくなり、読むようになりました。
祖母・筆子(夏目漱石の長女)と祖父・松岡譲との思い出は。
私の祖母・筆子は、漱石の没後に門人・松岡譲と結婚しました。戦争で、松岡の故郷・新潟県長岡市に疎開し、そこで暮らすようになりました。長岡には今も松岡の実家のお寺・本覚寺があります。子どもの頃、叔母の半藤末利子(はんどうまりこ・漱石の孫・松岡譲の四女)が、私と妹を上野駅から上越線で祖父母の家に何度も連れて行ってくれました。
祖父には特に厳しくされたこともありませんが、子ども相手に遊んでくれるようなこともなかったですね。祖母には何かと身の回りの世話を焼いてもらったのを覚えています。
祖父母の家の近くの悠久山に、日本三大花火大会の一つ「長岡まつり大花火大会」をみんなで見に行ったのが良い思い出です。
叔母さんとは仲が良いそうですね。
叔母・半藤末利子は随筆家で、その夫、つまり私の叔父の半藤一利(はんどうかずとし)は昭和史研究家です。叔父が文藝春秋の編集長だった頃、私は結婚を機に退職するまで一緒に仕事をしていました。
そんな縁もあり、今も叔母とは仲が良いです。叔母が繰り返し「松岡譲は気の毒だった。もっと世間から評価されても良いのに」と言っていて、それがずっと気になっていました。
松岡譲とは、どんな人物なのですか?
松岡譲は、東京帝国大学文学部在籍中に夏目漱石の門人となりました。同じく東京帝大に在籍していた、久米正雄、芥川龍之介、成瀬正一、そして京都帝大に在籍していた菊池寛の5人で、第四次『新思潮』という文芸雑誌を刊行。この5人は特に「新思潮派」と呼ばれました。後日松岡譲が僧侶の息子として育った経験を活かして書いた『法城を護る人々』は、当時のベストセラーになりました。
松岡譲は疎開後東京にもどることはありませんでしたが、当時は都内にいないと作品の発表も難しい時代。それに、漱石の娘と結婚したことで文壇から嫉妬された部分もあるのでしょう。他の4人に対する評価と比べると、松岡は長い間「漱石研究家」としてだけ捉えられ、文学的にはあまり評価されませんでした。
松岡譲について研究されているそうですね。
過去に某作家が松岡作品を酷評する雑誌記事を読み、その時は「そうなのか」と思っていました。でも叔母・半藤末利子が繰り返し「父は気の毒だった」というものですから、自分自身で祖父の作品を読み返してみたわけです。
読んでみて、低評価自体が間違っているのではないかと思うようになりました。また、作品自体の評価とは別の理由で文壇から締め出されたことはさぞかし無念であったろう、と思った次第です。
実の祖父とは言え、もう亡くなっているので直接話を聞くことはできません。目下、たくさんの資料と格闘中です。
資料を集めるのは大変そうです。
不遇の松岡譲に興味を持った中野信吉という方が、『作家・松岡譲への旅』という本を書きました。その本を読んで遅ればせながらお礼の手紙を差し上げたところ、中野さんが、衣装ケースいっぱい程の資料をくださいまして、それを読み漁っているところです。
また、漱石が晩年を過ごした家「漱石山房」の跡地に建てられた「新宿区立漱石山房記念館」で末利子叔母が名誉館長をしていますが、毎年松岡譲に関するテーマ展示があります。
「長岡ペンクラブ」発行の『Penac』(ペナック)という雑誌にエッセイを書かれているそうですね。
『Penac』は、松岡譲の功績を広く世間に知らせる目的で発刊された文芸機関誌です。私が実の孫であるということで声をかけてもらい、これまで三編ほどエッセイを書きました。
漱石については書かないのですか?
漱石は、多くの人に読んでもらい高く評価されている幸せな作家で、数えきれない位の方々が昔も今も研究して下さっています。私の役目は今後少しでも多くの人に祖父松岡譲を認知してもらうことだと思っています。結果再評価につながれば嬉しいです。私の父・松岡聖一も物書きでしたが、「夏目」の名が重かったのでしょう、プレッシャーに押しつぶされたようなところがありました。私は「ひ孫」ですから。これくらい離れていると、プレッシャーは感じません。
お話から、野尻さんはいつもデスクに向かっているイメージですが、健康の秘訣は?
運動が好きで、社会人のバドミントンサークル(BLⅦ)に入っています。若い頃と同じようにはできないのですが、体を動かさないでいると、職場のビルの3階まで上がってくるのに息が切れまして。これではいけないと思って、それなりに続けています。
読者の皆さんに、一言お願いします。
塾で講師として教えていますので、主に子どもさんに向けて。ぜひ、本をたくさん読んでください。本を読んで理解する力・読解力が、どの教科を勉強するにも基礎の力になります。私も純文学だけでなく、幅広いジャンルの本を読んでいます。ネットばかりでなく、ぜひ読書をしてくださいね。
猫のブローチが似合う、野尻はるひさん。誰もが知る文豪・曽祖父・夏目漱石よりも、不遇の祖父・松岡譲を研究する姿に、野尻さんの情熱と芯の強さを感じました。『文豪とアルケミスト』というオンラインゲームの人気キャラの一人として今改めて注目されている松岡譲。ぜひその文学作品を、手にとって読んでみてはいかがでしょうか。
学習塾ベイシック守谷駅前校
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