日本画家 今泉 尚樹さん
季節の移ろいを探しに・・・
柔らかな色彩、優しいタッチ、そして花々の凛とした美しさ。決して主張しすぎず、でもそっと何かを語りかけてくるような絵には、見る人の心を穏やかにする力がある。
取材の場所に颯爽と現れた日本画家・今泉尚樹さん(39歳)。落ち着いた作品のイメージとは、なかなか結びつかない若々しい印象だ。しかし、丁寧な、そして一生懸命な語り口からは、謙虚で誠実な人柄がうかがえた。
父の背中・母の手仕事
自然に囲まれた取手の地で生まれ育った今泉さん。父は野球雑誌のカメラマンだった。球界を代表するような有名選手たちの記事に、父の名前が載っていることが自慢だったという。その影響か子供の頃は野球少年だったが、絵を描くことも好きで、中学時代はイラストやアニメーションを描く。高校3年の夏から柏の美術予備校に通い、ここから本格的に美術への道が拓かれていくことになる。
また、母は庭いじりが好きで花を丹精こめて育てていた。彼の作品に植物が多いのは、子どもの頃からのそんな環境にあるのかもしれない。「身近なところに作品のテーマはある」と、車を走らせて取材に出かける。それは筑波山の里山の風景だったり、近所で咲くコブシや木蓮など四季折々の花であったり。「花の咲き具合なら誰よりも知っています」と笑う。季節の移ろいが日本の風景や植物画の中に、描き込まれていく。
伝えたいこと
制作にあたり特にこだわっているのが構図。何も描かれていない部分の余韻、そこから広がる空気感を伝えることを大切にしたいという。「芸術って、好きか嫌いか。見た人がどう感じるのか、その印象がすべてだと思うんです」と今泉さん。
アトリエにこもって自問自答を繰り返しながら絵と向き合う。岩絵の具とアクリル絵の具などを使い、独特の手法で作品が生み出されていく。「悩むことは、悪い事じゃないと思うんですよね」と語る今泉さんの静かなそして深い思いが作品から伝わってくる。そんな彼の作品を愛するファンも多く、個展を楽しみにしているという。
地方から地元へ
この10年は、都内の画廊を中心とし各地方での個展を精力的に開催してきたが、ここにきて地元を強く意識するようになった。昨年は守谷市「茶房かやの木」で地元では初の個展が開催された。明治時代の旧家屋の「蔵」を舞台に『風神・雷神』といったこれまでにない題材にも挑戦。これを機に描きたい世界にも変化が表れてきているようだ。
また、今回の取材場所となった守谷市「寿し屋の小平治」では、約1ヶ月に亘り「今泉尚樹作品展」が開催され、店内に17点の作品が展示された。各部屋の雰囲気に見事に調和した作品は、訪れたお客さんの心に深く刻まれたことだろう。
「よい出逢い、そして人とのつながりを大切にしていきたい」と今泉さん。更なる活躍が期待される芸術家の今後に注目したい。
今泉 尚樹 Naoki Imaizumi
1970年 取手市生まれ
1997年 東京芸術大学 大学院 美術研究科 デザイン専攻修了
2004年には恩師である大藪雅孝氏とのグループ展、2006年に現代日本画を代表する中島千波氏とのグループ展を「おぶせ中島千波記念館」で開催。今年冬には守谷市「茶房かやの木」で個展を開催予定。http://chielog.jp/imaizumi
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